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help リーダーに追加 RSS 小説「魔王」 伊坂幸太郎/著 感想

<<   作成日時 : 2005/11/06 19:52   >>

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『世界を変えてやる、くらいの意気込みがなければ、生きてる意味なんてねえよな』

伊坂幸太郎著の「魔王」を読み終わりました。

あらすじ
≪政治家の映るテレビ画面の前で目を充血させ、必死に念を送る兄。山の中で一日中、呼吸だけを感じながら鳥の出現を待つ弟。人々の心を鷲摑みにする若き政治家が、日本に選択を迫る時、長い考察の果てに、兄は答えを導き出し、弟の直感と呼応する≫

感想は・・・(以後ネタバレありです)

冒頭のおじいさんのセリフ、
「偉そうに座ってんじゃねえぞ、てめえは王様かっつうの。ばーか」
このいきなりの伊坂節炸裂のセリフに、僕はやられてしまいました。

最初に言っておきますが、僕はこの作品が好きです。
いつものポップな爽快感は健在ですが、
あっと驚くような伏線、仕掛け、結末は本書にはありません。
しかし、著者の、政治、社会、アメリカ、憲法に対する、鋭くて強い主張が文章に色濃く出ていて、
そうだよなぁと納得しながら読みました。
伊坂幸太郎の思いや考えがダイレクトに読めた気がして、僕は満足しました。

そのいくつか印象に残ったセリフと文章を紹介します。
少々長くなりますが悪しからず・・・。

犬養という政治家のセリフ。
「二十世紀に、他国に爆弾をもっとも落としたアメリカが、どうして、あそこまで自由に振舞うことができる?自由の国だからか?」
「アメリカに依存して、何も考えなくなったあなたたちの目を覚ましたいんだ。アメリカの言うことを聞いていればいい、誰かの書いたシナリオ通り、従来通り、伝統通り、前例通り、官僚の言う通り、それが政治家のやることとは思わない」
「今、この国の国民はどういう人生を送っているか、知っているのか?テレビとパソコンの前に座り、そこに流れてくる情報や娯楽を次々と眺めているだけだ。死ぬまでの間、そうやってただ、漫然と生きている。食事も入浴も、仕事も恋愛も、すべて、こなすだけだ。無自覚に、無為に時間を費やし、そのくせ、人生は短い、と嘆く。いかに楽をして、益を得るか、そればかりだ。我慢はせず、権利だけを主張し、文句ばかり、私は、それを自由と呼んで、大事にしておくべきとは感じない」
う〜ん、ショックと納得。

主人公・安藤が政治について考えたこと。
「ただ、それでも国民は、他の政治家に比べればよほどマシ、という恐るべき理屈で、彼を支持し、その結果、与党は、支持されているうちはやりたい放題、の調子で、十年を無駄にした。
その結果、今は、もう誰が政治をやろうと世の中は変わらない、と虚無感にも似た気持ちが蔓延している」
う〜ん、確かに・・・。

安藤の友人、島のセリフ。
「俺はもっと、闘う大人になる予定だったんだよな。対決してよ、世界を変えちゃうくらいのさ。
でもよ、この道をあと何年進もうと、恰好いい大人には辿り着かない気がするんだ」
自分もそうかも・・・。

安藤とバーのマスターがファシズムと民主主義について語る場面で。
安藤「ヒトラーは六百万人を虐殺しましたよ」
マスター「では、民主主義が善か?民主主義は何人殺したんだ?社会には、甘やかされて傲慢な若者と、自分のことしか興味のない人間ばかりが生まれた。インターネット経由でしか、社会に接続することができない奴らばかりだ。情報で、頭を麻痺させている。住宅街では、ひっきりなしに、少年少女が拉致されそうになり、十代に性病が蔓延している。果たして、この世界は正しいのか?」
ん・・・。

安藤と少年たちとが対峙している場面で。
少年「俺たちが小学生の時に、アメリカはどっか、中東の国を攻撃しただろ、核兵器を持っている可能性がある、とか言ってよ。その一方でよ、朝鮮半島の国は、核兵器を持っている、って自分から言っているじゃねえか。何で、そっちは攻めないんだよ。持ってない、って主張する国には爆弾を落として、持っている、って威張っている奴らは見守っている、っていうのはどういうことなんだよ」
・・・そう言われれば・・・。

安藤の弟、潤也のセリフ。
「世界の問題よりも、目の前の自分の問題だ」
「テレビの新聞も見ないでさ、こういうところで、鳥が出てくるのを待ってるだろ。何時間も待って、姿を見ても、たいがい三十秒もしないうちに消えちゃうけど、とにかく鳥を待って、ぼうっとしてる。
でさ、何か、こうしていれば世界は平和なんじゃないかなあ、って思うんだ。この地面をずっと延長していったどこかで、事故とか事件とかあるわけだろ?もっと延ばせば、戦争だってあるし、飢えとかそういうのだってあるんだろ。知らないけどさ。でも、そんなの考えなくて、ここでぼうっとしている分には、関係ない。深く考えなければ。考えない考えない」
溢れかえる情報が、何より僕らを不安にさせるんですよね・・・。


他にも、ゴキブリをせせらぎ≠ニ呼んだり、
安藤さんとアンダーソンが似ているという場面は面白かったです。

この作品には、印象的なセリフや文章がまだまだ沢山あります。
紹介したのは、ほんの一部です。
本書を読み終わると、政治や社会、アメリカ、それに憲法と、
今までと考えや見方が、ちょっと変わってくるかもしれませんね。

本書は、短いし読みやすいので、是非読んでみて下さい。

お勧めです。

評価:★★★★★






魔王
講談社
伊坂 幸太郎


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